私は中小規模の調剤薬局チェーン店に勤めていました。
近所の調剤薬局に就職することができたし「これから長くこの仕事を続けよう!」と思っていた矢先、薬局が吸収合併されてしまう事に。
最近は、このような調剤薬局のM & A(吸収合併)が盛んになっていると、耳にした事がある薬剤師はおおいはず。でもまさか自分が、という感じですよね。
ある薬剤師転職エージェントからは「ほとんどの中小規模の調剤薬局は、これから大手チェーンに吸収されるのではないか」と予想されている人もいました。
経営者の高齢化により引き継ぐ人がいない、薬剤師が確保できずに経営ができなくなった場合のM&Aもあります。
しかし今では、調剤報酬改定・薬価改定の影響で減収が続いてしまい、中小の調剤薬局が大手チェーン薬局に吸収合併されるケースが増えました。
今回は、働いている調剤薬局が吸収合併される事になった私が、実際に経験したこと。どのような行動を取ったのか、そして対処法などを中心にお伝えしていきます。
悩んでいる薬剤師は、まずは「薬キャリエージェント」で求人を紹介してもらい、合併先の薬局と天秤に掛ける事がリスク回避に役立ちます。
働き方を見直すチャンスと前向きに捉える事で、この先もポジティブに働く事が出来るからです。
調剤薬局のM&Aを突然届いた社長からの連絡で知る
自分が働く薬局が、大手チェーン薬局に吸収合併されることを知ったのは、突然届いた社長の LINE からです。
勤務先のグループLINEに送られてきた内容は以下ような事が。
- 会社が大手企業に吸収合併されること
- 給与の振込先が変わるので、新たに銀行の口座を開設すること
- 今までの給与は保証されるが、人間の働き方は同じものとみなし基本給は一律13万円
- パートの契約更新は3か月ごと
私は当時育児休暇中だったので、このような知らせは初耳でした。
他のスタッフに聞いてみると以前からそのような話は出ていたようで、色々と話が進んでいたようです。育休中だったから、突然聞くことになった。それは仕方がない事かもしれません。
それでも気になることがあります。「基本給一律13万円」「人間の働き方は同じもの」この文言にけっこう引っ掛かってしまったのです。
だって、人間の働き方は同じものではないし、基本給13万円っていくらなんでも低すぎると思ってしまったから。
調剤薬局の吸収合併が機会と言えども、どうしてそこまで基本給を削ろうとしているのか疑問でした。
大手チェーン薬局からすると、基本給を削ることで人件費を下げることが可能なケースが多いからかもしれませんね。
基本給がものすごく大事なわけ
実際の給料(月収)は、基本給に薬剤師手当等が追加されたものが、月額の給料になることが多いと思います。
私の場合、薬局が吸収合併しても今までの給料は保証されるという話でした。「だったら基本給低くても薬剤師手当がたくさん付いてたらいいんじゃない?」て思われる人もいるかもしれませんが、それは大きな間違いです。
基本給がとにかく大事なのは、残業代・ボーナス・退職金の計算には基本給が使われるからです。
つまり基本給を低くすればするほど、残業代・ボーナス・退職金を支払う金額を少なくすることが可能になってきます。
※厳密には、残業代の計算に基本給は関係しません。「基準内賃金」と言って、月に定額で支払われるもの(住宅手当などは除く)を基準とし、算出します。
賞与についても、何を算定基準とするか、各社の給与規定で変わります。
しかし、各種手当は基本給と異なり将来的に削減される可能性が高いものなので、やはり「不安定」と言えますね。
いくら額面の給料が高いといっても、その内訳の基本給が低いと損をする可能性が出てきます。調剤薬局の吸収合併に遭遇したら、注意したい部分。
手当の部分は会社の業績や方針で、すぐにカットする事が可能です。基本給は労働契約法によって簡単にカットすることが出来ません。
テレビを見ていると、毎年春になると労働組合がベースアップって訴えてますよね。ベースアップは「基本給のテーブル」を底上げすること。基本給は給与の根幹なのです。
薬局の吸収合併で賃金下がる!?
やっぱり気になったのが「基本給13万円」。この金額は低すぎやしないかと疑問に持ちました。
地域によって最低賃金の金額が違いますが、全国平均は時給約900円です。週に40時間労働をすると、月の労働時間はだいたい170時間になります。900円/時給×170時間=153,000円
つまり、基本給13万円は、最低賃金で計算すると下回ってることになります。計算してみたら、誰もががわかること。
もちろん手当でカバーされれば法的には問題無い事ですが、なんか気持ち悪いですよね。
調剤薬局の吸収合併によって、納得のいかない賃金体系になる。私の中で、どんどん不信感が募っていきました。
管理薬剤師とも話し合い、「この基本給が低すぎることは問題ではないか」と伝えてみました。
基本給は将来を考えるととても大事だからです。私の場合は年俸制だったので、ボーナスは関係ないのですが、それでも退職金や残業代に大きく響いてきてしまいます。
管理薬剤師の意見としては「薬局の吸収合併の条件に納得いかないなら辞めるしかない」といった回答でした。会社の扱いはこうなんだ、合併してしまうんだから仕方がない、そういった雰囲気も感じました。
殆どのケースで待遇が下がりますし、何より「大手」だと働きにくく感じてしまう薬剤師が多いのです。
調剤薬局が吸収合併されるのを機に転職活動
働いていた調剤薬局の吸収合併という事態が会社への不信感へとつながり、私は転職活動をこっそりとを開始します。
まずは転職エージェントの方に連絡を取り、自分に合う求人を探していくことからスタートしました。
とは言え、私が働いていた調剤薬局の吸収合併、時はちょうどコロナ禍真っ只中の2020年でした。
そうした事もあり、薬剤師の年収が下がっているということ。また、求人の入れ替わりが激しいというといった傾向が出てきているようでした。
パート薬剤師や派遣切りが増えていて、ひとつの求人に薬剤師が殺到しています。年収を上げなくても薬剤師が来るので、薬剤師の年収は下がり基調でした。
私は幼い子供がいて、子供のお迎えや子供の急病で休むことがありました。仕事の時間にどうしても制約がかかってしまう薬剤師は、なおさら不利な状況に立たされたのです。
そのような状況だったこともあり、「転職をしない選択もやむを得ないかな」とも感じ始めてしまいました。
吸収合併先の大手薬局から届いた質問表
そんな矢先のことです。合併先の大手調剤薬局から、新しく契約するに至って面談が行われることが知らされました。その面談の際には、履歴書を記入し持参するようにとのこと。
届いた封筒の中に契約内容と履歴書が入っていたので、契約内容を見ると以前の年俸より少し上がっていました。基本給は20万円程度。以前伝えられていた13万ではありません。
職場が近所だし、年収も少し上がるし、「やっぱり今の職場に留まった方がいいだろう」そう考え直すようになりました。
履歴書は自分で準備していなかったので「同封のものに記入したらいいのかな」と思い、会社から用意された履歴書を眺めてみると、履歴書には質問票も載っていました。
私は、その質問表を見て愕然としてしまいます。一部を抜粋しますが、その中でも特に信じられないなと思った質問がこちらです。
- 嫌な仕事でも引き受けるか
- 勤務時間外に仕事をするか
- どんな現場でも働くか
- 評価が上がるなら転勤できるか
- 会社の借入金の連帯保証をするか
これだけでも、見ていて気分が悪くなるような内容ばかりでした。
どういった意図でこのような質問票を作ったのかは不明ですが、私から見ると大手調剤薬局チェーンが社員を搾取していこうとしている感覚を感じました。
自分の時間を犠牲にし、仕事だけに生きるような道を選ぶことができる薬剤師ならば「YES」と答えても、それはそれでいいです。いろいろな働き方・考え方がありますよね。
でも私の場合は、仕事も大事ですが、プライベートもそれ以上に大事。このような質問には「NO」で提出しました。
雇用契約書を見て今の職場に留まろうと思っていた決意はすぐに消え去り、この質問票でさらに不信感が増してしまいました。
やっぱり薬局の吸収合併は受け入れず、転職する事に決めたんです。
念のため労働基準監督署に質問
私はこのような質問票に初めはどうしたらいいのか困り果てて友人にも相談してみました。すると、一応労基に聞いてみたら?と言われたので、電話で質問をしてみました。
質問票の内容を、電話口に1文ずつ口頭で伝えてみたところ、労基のスタッフの方が後半は半笑いになっていました。それぐらい呆れる内容ばかりだと言う事です。
労基からの回答は、質問票自体は労働基準法の視点からは違反にはならないが、この質問票の回答によって不利益が発生する場合は違反になる場合があるとのこと。
白紙のコピーと提出する前に自分が記載した内容のコピーを取っておくようにアドバイスをもらいました。
いちおう面接に挑む
履歴書に添付された例の質問票を持って面接に挑みました。面接はいたって普通に終わりました。事前にこのような質問票を持ってくる時点で色々荒れるんじゃないかと予測していた私には拍子抜けでした。
他のスタッフの人たちは、この面接が案外すんなり終わったので、今の会社に留まっておこうと考える人達もいました。
面接の録音は可能?
実際にはそこまではやりませんでしたが、友人からは何かあった時のために面接の内容を録音した方がいいんじゃないかと心配されました。
結論から言いますと、面接の無断での録音は法律的には問題はないようです。もし、面接時にハラスメント等で何か問題があった場合でも、無断で録音した内容を利用して立証することも可能なようです。
無断録音してもその使い方によるようで、 一般に公開することで、その会社を特定され、会社に不利益が被った場合には名誉毀損やプライバシーの侵害ということで会社側から訴えられて問題になる場合があります。
どうしても面接に不安要素がある場合は録音を考えてみるのもいいかもしれませんね。
薬局の吸収合併を機に退職を決意
職場内では、年齢の高い薬剤師ほど、今の現場に留まる人たちがほとんどでした。40代、50代だと少し躊躇するのも分かりますよね。
私は職場が吸収合併される一連の動きを見て、会社への不信感や違和感を無視することができず退職を決意します。育休中の身でありながら、こんなことをしていいのだろうか、とても悩みました。
ただ、薬局が吸収合併された後、今後も長く働いていける職場なのか考えてみると私の結論はNoです。
またあの質問票のようなことを突きつけられる事態がきっと来るのではないのでしょうか。ここは、自分の感覚を信じて行こうと思いました。
育休中に退職するなんておそらく批判されたと思います。でも新しい契約を交わそうという気持ちにはどうしてもならなかったのです。
育休中という事もあって大変でしたが、そのような中でも、私は運良く納得できる就職先を見つけることができました。粘り強い転職活動が奏功したんです。
もちろん、転職できるかどうかは地域によって差が大きいとは思いますが、年齢の高い薬剤師ほど転職に慎重になった方がいいかもしれませんね。
薬局が吸収合併される=100%マイナスではない
ここで弁明しておきたいのは、薬局が吸収合併されたとしても、納得いくのであれば契約していたということです。
職場が吸収合併されるのに決してマイナスイメージを持っているわけではありません。
今まで中小企業だった薬局が、大手チェーン薬局の中に取り込まれることで、店舗間の異動の発生などの体制の変化は仕方がないことです。
ただ働く薬剤師にとっては、大手チェーン薬局と同じ福利厚生を受けることができます。中小企業の場合は退職金がつかないこともありますが、大手だとそうでも無いかもしれません。
※大手チェーン薬局でも、退職金のある所はまずないが、確定拠出年金制度などはある。
吸収合併する大手チェーンの方が、人員が確保されているので薬剤師不足の解消、残業時間を減らすことも可能かもしれません。
※そういう期待を抱いて吸収合併を受け入れる薬剤師が多いですが、現実は全く違う
ただ、店舗が増えることによって、色々な処方箋を経験することもできますし、管理薬剤師を目指している人はチャンスが増えるようになります。
時代の流れに応じて大手チェーン薬局の会社に取り込まれていくのも、生き残るためには大切なことだと思っています。吸収合併にも、少しはメリットがあるかもしれませんよね。
ただ、私の場合は、契約を組むことにどうしても納得がいかなかったことが多くあっただけのこと
です。
自分が働く薬局が吸収合併されたら
もし、今働いている薬局が吸収合併される話が出てきたら、まずはどの会社所属することになるのか、その会社の特徴などを事前に調べておく事が大事です。
私は事前に転職サイトの口コミ情報や実際に勤務されている方の情報を聞いていました。
今の契約がそのまま引き継がれることもありますが、一般的には、1〜2年ほどで新しい会社の就業規則に徐々に切り替わっていきます。そうすると年収も下がります。
私は退職を決意したのですが、周りのスタッフは新たに契約を結んだ薬剤師もいます。そのスタッフの一人は、「ここの職場だけは、今までと変わらないから大丈夫らしいよ。」と気軽に話していたので、とても驚きました。
同じ会社だって方針は変わっていくことがあるはずなのに、違う薬局になるなら尚更方針が変わることは考えられます。
「契約内容は変わらないから大丈夫」と安心せずに、どのような会社なのかは事前に調べておく事が大事。
また、薬局の吸収合併により新たに契約を結ぶということは、転職活動と同じようなもの。その会社が自分に合っているのか、長く続けられる職場であるのか、とにかく下調べあるのみです。
調剤薬局の合併が盛んになっているので、転職するにしろ、新しい会社と契約するにしろ、どちらが正解かというわけではないとは思っています。自分が後悔しない方法を選択したいものですね。
まぁたいていの場合、吸収合併後に退職してしまう薬剤師が多いのですが。
将来を考えるなら、転職をする事を前提にしつつ、今の薬局とどちらが良いか比べる事が大事になってきます。
特に正社員なら最大手の「薬キャリエージェント」で求人紹介、キャリアアドバイスを受けつつ様子を見たほうが良いと言えますね。